洋書が必要としているもの
本当はそれを導き出した問いがあったはずだ。
その問いの設定がなければ、おもしろい話は出なかっただろう。
そういうクリエイティブな問いに対する感性が上から見下ろすことによって養われるのである。
非常に重要な訓練である。
ディスカッションを何回か見ていると、上から見た図が目に焼き付いて映像として残る。
あるいは身体感覚として上から見ている感触が体の中に残る。
すると自分がディスカッションに加わるようになった時、自分を斜め後ろから見下ろす視線が作られるのだ。
すなわち離れたところから自分を見るという世阿弥の「離見の見」だ。
その目があれば自分が対話の波にのみ込まれそうな時でも、ひとつ上から引き離して見ることができる。
「今ここで対話が停滞しているのは、もたらあの時のあの問いが原因かもしれない」と見当がつくので、「もう一回元に戻すための問いはこれだろう」と対話の流れを修正することができるのである。
学生にディスカッションのテー マを与えても、しばらくするとまったく関係ない討論をしてしまうことがよく起こる。
一度対話の波にのみ込まれてしまうと、なかなか抜け出せないものだ。
とくに今話している相手に対して誠実に話そうとすればするほど、泥沼にはまってしまう。
これほどばかばかしい事態はないだろう。
要求されているテーマにまったく沿っていないのだから、一度断ち切ってもう一度設定し直す必要がある。
メタというのはギリシャ語で超える。
という意味だ。
超えて、上から見下ろすという視点を持つことが質問に対しての意識を生むのである。
上から見ている学生はノートを取りながら観察するので、誰の発言がよかったか、かなり鋭い意見を言う。
ディスカッションをさせるとそれほどでもない学生でも、採点者側にまわったとたん恐ろしく鋭いコメントを発する。
表面の事柄にとらわれず、本当に充実したディスカッションを引き出している陰の主人公にちゃんと注目しているのだ。
彼らはその時「質問力」の重要性に気付く。
酒々としゃべっている人がすごいのではなく、質問を出した人で場は支配されていることがわかるようになる。
これも「質問力」を鍛えるトレーニングのメニューである。
今説明したのはゲーム化したものだが、日常のすべての対話がコミュニケーションを鍛えるチャンスだ。
コミュニケーションの基本は一対一つまり2人の対話だから、これを徹底的に習熟させることで、3人でも5人でも対応できる形になっていくだろう。
まずは2人の対話を深めるのが先決だ。
要するにサッカーと同じだと思うが、2人でパスをしあうのがいちばん簡単だ。
2人なら相手を見て、確実にパスができる。
他に邪魔をする敵もいないし、選択肢もそれ1つに限られている。
にもかかわらず、正確なパスが出せないとすれば、複数で行なう試合でパスが出せるわけがない。
出せたとしてもそれはまぐれだ。
多くの人数でディスカッションするのは、サッカーのゲームのように複雑な力学が働く。
一対一の訓練ができていないと、複数の人間の中でクリエイティブな関係を作るのは難しいだろう。
本書で取り上げるテキストも一対一で深まっている対話の例を取り上げている。
ニケーション力の中でも「対話力」がいちばん一対一をイメージしやすいからだ。
「対話力」を「質問力」というポイントから分析するのがこの本の大筋である。
「コミュエケーシヨンの秘訣は質問力にあり」というのがこの本の大きなメッセージである。
質問さえできれば、コミュニケーションはほとんど大丈夫だとさえ言える。
老若男女と必ず瞬間的に対話を深めることができるのが理想だ。
あるいは外国人と語学力は別にして、きちんとコミュニケーションができることが理想である今は自分と同質の人と対話をする時間が圧倒的に長い。
昔に比べると兄弟も少ないし、異年齢で遊ぶこともなくなっている。
いとこも少ない。
おじさん、おばさんとあいさつをすることも少ない。
要するに自分と同じような人と同じ時間を過ごしているわけだ。
つまりホームで試合をやっているようなもので、アウェイの試合には弱い。
質問さえできれば、アウェイでもコミュニケーションができる。
アウェイというのは相手がよくわからない状況をいうが、そんな時でも質問次第で相手の言葉が引き出せる。
それによって相手の状況がわかってくるから、さらに深めた質問をする。
その繰り返しによって「気が合うね」という状況をつくり出すことも可能である。
気が合うとは気質が合うのはもちろんだが、気質の問題以上にコミュニケーションを滞りなくつなげていく力に影響される。
スムーズに対話が続けば、「あの人は好きだ」とか「あの人はいい人だ」という評価になるだろう。
はっきり言うと、頭のよさは文脈をつかむ力だといえる。
文脈をつかめない人はやはり頭はよくないとみなされる。
みんながみんな新しいアイディアや発明を生み出せるわけではない。
文脈を外さず、キッチリと織物を織っていくように対話ができる能力は、練習すればほとんど誰でもができるようになる。
磨けばのびる能力なのだ。
その後は何を話したらいいかわからなくなる。
初年分の経験世界が抜けているので、そこから繰り出すネタがないのだ。
上手な対話者の場合は、自分の経験世界を会話の中に織り込みながら話をする。
すると表面の話だけではなく、ここ何年か自分がどんな経験をしたかを話すことになる。
さらに相手の経験世界からも上手に話を引き出す。
「質問力」である。
おもしろい話をするからと雷って、対話上手とは限らない。
私はいろいろな人と対談をしたが、私の経験世界を一度も質問しなかった人もいる。
私が相手の経験世界から何かを引き出そうと質問すると、向こうは自分の経験世界だから話が一挙に噴き出して来る。
それを受けて私の方に「あなたの場合はどうだったでしょうか」と聞けば、少なくとも話は絡み合っていくわけだが、その程度の質問もできない。
要するに自分しか文脈がないという人もいる。
仕事で一流であるかどうかということと必ずしも一致しない。
コミュニケーション能力があったほうが仕事をゲットしやすいが、なくても一流の仕事をすることは充分にありえる。
だが、楽しい場を作っていくためにはお互いに経験世界を混ぜ合わせることが大切だろう。
双方の脳味噌を混ぜ合わせられる快感が、充実した時間を過ごしたという感覚につながるのである。
このように経験世界を絡み合わせるための鍵が「質問力」である。
図でいくと、表面の話題だけでなく、斜めに相手の過去に切り込んでいく質問が望ましい。
相手の苦労や積み重ねてきたものを掘り起こすような質問ができると、少なくとも相手にとっては深まった話ができた印象になる。
今話している表面のテー マに一見関係ないようでも、ある角度を付ければ、関係する過去の経験が出てくる。
すると話題に奥行きが出てくる。
相手が持っている主観的な世界に対してこちらがおもしろいと感じて質問すると、相手は「そう言えば」と言ってあれこれ思い出す。
それは発見であり、非常にクリエイティブな関係だ。
わざかそういうコミュニケーションを引き出す「質問力」には明らかにコツがあり、技化できる。
私が言いたいメッセージである。
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